会議の録音を終えていざ文字起こしを始めたら、特定の人の声が全然聞き取れなかったり、「この発言、誰だろう?」という箇所が続出した――
という経験は、事務局担当者であれば一度はお持ちではないでしょうか。
一定の人数を超えると、全ての話者の声をカバーするのは意外に難しいことです。
そして、“顔と名前と声のワンセット”の情報が会場では当たり前のように頭に入っているのですが、終わって音だけになると途端に自信がなくなることがあります。この発言はAさんのような気もするし、Bさんのような気もする。短い一言だけの発言だとなおさらです。
議事録は、会議における審議の経過と決定事項を正確に記録する重要な公式文書です。後日、関係者が内容を確認したり、意思決定の根拠を振り返ったりする際の唯一の拠り所となります。
それだけに、「誰が・何を・どのような文脈で発言したか」が正確に記録されていなければ、文書としての信頼性は大きく損なわれます。発言者の立場からすると、言ってもいないことが自分の発言として書かれていたり、あるいは、言ったはずのことが他人が発言したことになっていたら、とても不本意なことです。
本稿では、録音段階でよく起こるミスとその背景、具体的な対策をご説明します。
録音に関するトラブルで特に多いのが、以下の3つです。それぞれ、なぜ問題が起きるのかという背景も含めて解説します。
INDEX
<現場でよく起きる3つの録音トラブル>
準備不足・マイク配置のミス
まずは、録音機器の電池やメモリ、操作の仕方など、基本的な確認を怠らないことが大事です。
会議室の中央に1台だけ録音機器を置いた場合、端の席の参加者の声が小さく拾われ、文字起こし時に聞き取れないことがあります。特に大人数の会議や縦長のテーブル配置では顕著です。
時々、記録担当の方が出席者に遠慮してなのか、自分の手元だけに録音機器やスマホを置いてメモしていらっしゃるのを見かけますが、肝心の発言内容がクリアに録音できないだけでなく、自分のパソコン操作の音や資料をめくる音が想像以上に大きく入り、残念な録音になってしまいます。そのため、「録音できていた」と思っていたのに、再生してみると特定の参加者の声がほとんど聞き取れない、というケースは珍しくありません。
会議室の環境が録音品質を左右する
反響しやすい会議室、特に古い建物や吸音材のないところでは、声が壁や天井に反射して重なり合い、非常に聞き取りにくくなります。また、空調音・プロジェクターの駆動音・窓の外の雑音など、環境ノイズが録音品質を大きく下げる要因になります。
そして、これは生理現象なので責められないことではありますが、なぜか肝心なところで大きな咳やくしゃみがかぶってしまう、ということもよくあります。
また、マイクを使用して発言する場合も、音量や口に近づけ過ぎないなどの配慮をしないと、何を言っているかわからない不鮮明な録音になります。
少し話が脱線しますが、印象に残っている雑音の話を一つ。
夏の季節の会議でしたが、30人近い出席者がテーブルに出されたアイスコーヒーを一斉にマドラーで混ぜ始めました。大音量の「カラコロ、カラコロ」という音がモニター中のヘッドホンから聞こえてきて、それはもう、雑音というよりはびっくりするような幻想的な響きでしたので、しばしうっとりしました。
「誰の発言?」が分からなくなる
誰の発言かは重要な情報ですが、時にはメモが追いつかないぐらい議論のやり取りが激しいことがあります。また、活発な議論の場では複数の参加者が同時に話すために、話者を特定できないケースもあります。笑い声・相槌・ざわめきが入り混じる場面では、肝心の発言内容が埋もれてしまうことも少なくありません。
<今日からできる3つの対策>
録音機器の複数台設置
集音マイクを複数台置いて手元でミキシングをするなど、発言者一人一人によりフォーカスした録音方法もありますが、何かと忙しい準備段階や会議中にはそこまでできないかもしれません。ですが、せめて録音機器は複数台設置してください。クリアな録音ができる範囲を広げることと、機器のトラブルに備える理由からです。
マイクを使用する場合は、音量は大きすぎず小さすぎずの調整が大事です。音量が大きくてよく聞こえているような気がしても、反響した不鮮明な音では後々正確に聞き取れません。
発言時のルール設定
「発言前に名前を名乗る」というルールを参加者に周知することで、文字起こし後の話者識別が格段に楽になります。ただし、議論が白熱してくると忘れがちです。1回目は名乗っても2回目からは名乗らない人もいます。あまり当てにならなかったりします。
本当は冷静に議事を進行している議長役の人が、名前を呼んで発言を促すのが一番いいと思います。「はい、どうぞ」ではなく、「○○さん、どうぞ」と言って指名する議長さんは、大変丁寧で、かつ温かみがあります。
進行表(話者+頭出し)作成のススメ
時系列に発言者と一言目の言葉を記録しておくと、後で録音を聞いて文字起こしをするときに、誰の発言だったか明白になります。議論のやり取りが激しくなってメモが追いつかないときは、座席表に番号を振ってそれを進行表に記載しておくだけでも役にたちます。
<専門業者への委託という選択肢>
AIによる文字起こしのツールは様々あるけれども、期待どおりに仕上がってくるわけではありません。修正部分も多いです。公表・保存の必要がある大事な議事録は、慎重にチェックをする必要があるため時間も手間もかかります。専門業者に委託することによりかなりの部分を省くことができます。そこはメリットの一つです。
一方、事業者は、専門用語を調べたり、発言を正確かつ適切に文章化する技術は長けていますが、内容を深く理解しているわけではありません。部外者ゆえに生じる勘違い、聞き間違いなどはどうしてもあります。そこは依頼する側の専門知識や内部事情をもとに、十分なチェックをする必要があるでしょう。
もう一つのメリットは、外部に委託することによって、第三者的な要素が働くことです。発言者に対して何の忖度もありませんから、発言の趣旨を変えることはありません。そのまま事実が記録されます。無意識に関わりのある人の発言に配慮をしてしまう、といったことがあってはならないならば、外部に依頼するのも一つの手です。
議事録は、会議の意思決定を正確に後世に伝えるための重要な文書です。担当者の負担軽減、記録の信頼性向上という観点からも、専門業者への委託は十分に検討に値する選択肢です。

